The light of August 6, 1945
1000枚の燃える折り鶴の写真。それは1945年8月6日の早朝に広島の空の上で瞬いた光を象徴している。 その時、爆撃機エノラゲイの記録係はその模様をカラーフイルムで撮影していた。あの光を捉えた唯一のフイルム。しかしそのフイルムは現像に失敗し、その時の記録は永遠に失われる。失われた記録と膨大な犠牲。あの爆発した時の光が全てに繋がっている。そこに改めて今を生きる人を繋げるためにこの作品がある。

この作品は折鶴を約1000羽燃やし、その燃えている様と撮影し、それを約1000枚並べることで構成されている。発光体として折鶴を選んだのは、千羽鶴が「1945年8月6日」と「今現在」を結びつける鎹(かすがい,clamp)と考えるからだ。

燃える折鶴はやがて灰になる。その灰もまた撮影され、同じように並列に構成している。これはその光の結果生み出された世界を象徴する。 光と灰。その中に8月6日の光とそれによって現れた世界を観る人それぞれの内面に再構築し、見出すことができると考える。








作品制作の背景

 作品の着想は2008年の広島への旅から始まった。
 私の祖父は目が悪かった。眼の悪く、しかし手先が器用だった彼は戦争中は徴用工として呉で働いていた。しかしそんな彼も戦局の悪化によって戦争の終盤、ついに兵隊として南方に行くことが決まった。1945年8月6日、出征の準備をするために呉駅のプラットフォームで故郷への汽車を待っている時に広島の方から瞬く光を見た。原爆の破裂する光だった。

 美術の大学に通い、写真で作品をつくるようになった時、その祖父が見た原爆の光を改めて考えるようになった。もちろん今あの光はないのだが、今の時間でも現地に行けば何かしらこれに関わる写真が撮れるのではないだろうか。そんな感じで具体的に何も決まらないまま広島に向かった。初めて足を下ろす広島。ここに来れば原爆の何かが撮れるだろうという期待は、実際に現地を訪れ、歩き、撮影する中で消えて行った。当たり前だが原爆の投下から60年以上が経ち、その間に育まれた生が広島を、普通の街にしていた。原爆ドームも被爆建物も保存されているが、それらはオブジェのように思われた。それは普通に考えれば喜ぶべきことだ。原爆の傷跡が生々しく残されているなど、部外者の願望に過ぎない。しかし、「あの時」を探す者にとっては現実の状況だけではもはやそれは手が届かない存在であることを痛感させられた。

 そうした絶対的な時の壁に打ちのめされた時に、ある建物にふらりと入った。銀行だった被爆建物。そこに千羽鶴が山積みされていた。全国の小・中学生が広島を訪れたさいに捧げるこれらの折り鶴を見た時に、この鶴達はあの時の光で消えて行った存在と今を繋ぐ鎹(かすがい)なのだと感じられた。

 東京に戻ったら改めて原爆について調べるとともに鶴を折り始めた。そしてその鶴を一羽づつ燃やし、それをフイルムに収めた。なぜデジタルではなくフイルムにしたのか。それは広島の原爆投下の際にエノラゲイから撮影されたフイルムは現像に失敗し永遠に失われてしまったために、その記録の空白に改めて置かれるフイルムだからだ。(一般に知られているキノコ雲の映像は爆弾の投下に同行した学者が個人的に記録していたもので、それは爆発の数秒後からの世界しか収められていない)。燃え落ちて灰になったそれを袋に詰めまた改めてシャッターを押す。

 撮影したフイルムを現像し、プリントする。それを一面に並べた時に、灰は原爆の爆発で人も建物も空気も全てが灰になった風景を象徴する造形になっていた。一方でその炎の玉はあの時炸裂した原爆の光を見出すものだった。この光には祖父が「大きな花火のようだった」と評した原爆の光をここに見いだすことができるように感じる。これから原爆の記録は完全に記憶から記録に移行する。その時にもこの光は私たちをあの時の光の時に繋げてくれる。







舞台公演
これまでに複数回、この作品の上を日本舞踊家の野西晃造氏が舞う形で公演を行っている。
公演ごとに音楽家や舞踏家を招き、常に作品に新しい意味を見出し、更新している。

2019
「星と旅 “voyages et étoiles”」
パリ, cité internationale universitaire 日本館
2019年12月8日



2018
「過去・光・未来'Passé – Lumière – Futur'」
パリ, Cité internationale des arts
2018年11月3日



2016
「ふるえと光“vibration et lumiére”」
パリ, cité internationale universitaire 日本館
2016年6月4日



2010年
原爆許すまじ
東京・四谷, 企画ギャラリー明るい部屋(個展、メテオ会期中) 
2010年11月20日


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